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【広島芸術学会】会報第180号 2025年8月26日発行
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□目次□
1.広島芸術学会 令和7年度総会・第39回大会のご案内
2.大会研究発表要旨
3.シンポジウム:「サイト・スペシフィックな美術館建築がもたらす影響と課題」
4.事務局から
・新入会者のお知らせ
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1.広島芸術学会 令和7年度総会・第39回大会のご案内
下記のとおり広島芸術学会 令和7年度総会・第39回大会を開催いたします。
日時:2025年9月13日(土)10:30~16:35
会場:広島大学東千田キャンパスSENDA LAB多目的スペース
«総会» 10:30~11:15
«大会» 11:30~16:35
- 研究発表
・研究発表1 11:35~12:20
「歴史的人間学における「ミメーシス」概念の再検討―美的人間形成論再構築のための予備的考察―」
樋口 史都(広島大学大学院 博士課程後期)
― 昼休憩 12:20~13:30 ―
・研究発表2 13:30~14:15
「遠近・高低表現の光琳から抱一への継承と進展」
小田 茂一(元愛知淑徳大学教授)
― 休憩 14:15~14:30 ―
- シンポジウム「サイト・スペシフィックな美術館建築がもたらす影響と課題」:14:30~16:30
趣旨説明/司会・進行:谷藤史彦(美術史家、元下瀬美術館副館長)
パネリスト:
山本和毅(下瀬美術館主任学芸員)
椋木賢治(島根県立美術館学芸課長)
野中 明(広島市現代美術館副館長)
2.大会研究発表要旨
・研究発表1
「歴史的人間学における「ミメーシス」概念の再検討―美的人間形成論再構築のための予備的考察―」 樋口 史都(広島大学大学院 博士課程後期)
古代ギリシャに源泉をもち、美学・芸術学における重要な概念であった「ミメーシス」は、1990年代にドイツで生まれた歴史的人間学(Historische Anthropologie)によって、再び光が当てられてきた。歴史的人間学において、ミメーシスとは単なる「模倣」や「まね」ではなく、「表象」、「表現」をも意味するものであり、「社会化と教育の過程、社会的行為や美的経験の過程」を導くものであるとされた(Wulf 1994)。
こうした視点は、ドイツと日本における美的人間形成論においても重要な概念として認識され、近代的な教育観を解きほぐして、新たな人間形成のあり方を見出した点で重要である。しかし、ここで注目すべきであるのは、歴史的人間学の議論の前提として、ミメーシス概念が美学や芸術学の問題のみに矮小化されてきたことに対する批判が存在していることである。なぜなら、こうした近代美学の唯美主義的側面を批判的に捉える視点は、美的人間形成論に、ある種の偏った問題構成をもたらしている可能性があると考えられるからである。
以上のような問題意識に基づき、本発表ではまず、歴史的人間学におけるミメーシス概念の理論的前提の妥当性を検討する。そして、それに基づく問題構成が美的人間形成論に与える影響について考察する。それによって、これまでの人間形成論におけるミメーシス概念を再定義する必要性が明確化され、新たな美的人間形成論を提示するための足がかりが得られると考えられる。
・研究発表2
「遠近・高低表現の光琳から抱一への継承と進展」 小田 茂一(元愛知淑徳大学教授)
酒井抱一は生涯にわたって尾形光琳の画風を研究し、自らの作品へと反映させていますが、ごく初期においては歌川豊春や秋田蘭画から西欧風遠近法を学びました。松風・村雨の姉妹が樹下に立つ豊春の『松風村雨図』を模写した作品では、松の大木の先の遠景をすやり霞をたなびかせることで省略している豊春とは違い、抱一は彼方に廻り込む岬までを描出する構図を採っています。光琳は反時計回りに廻り込む画面構成で高さを表現していますが、抱一はこれと同様の廻り込みを奥ゆきの描写に変えています。そしてこの脇に樹木がある場合には、光琳も抱一も樹木が高さの、廻り込みが遠景の描出となっています。光琳が廻り込みの構図で高さを描出した事例としては『太公望図屏風』などがあり、立木とその脇から伸びていく廻り込みを組み合わせた構図は晩年の円熟期の作品『紅梅白梅図屏風』に到り、図案化されたなかに奥ゆきと上方への広がりを獲得していると言えます。抱一は光琳にしばしばみられるこのような構図の特質に比較的早い段階で気づくことになったと考えられます。しかし抱一にとっては、廻り込みは常に奥への広がりの描写であり、樹木を伴う場合には光琳と同様でした。
抱一は光琳が多用した画面構成の特徴を踏襲しながら、西欧遠近法について学んだ知識を踏まえることで、光琳の構図をさらに多様性のある表現としているのです。光琳から抱一へのこの継承と進展を具体事例によって検証します。
3.シンポジウム:「サイト・スペシフィックな美術館建築がもたらす影響と課題」
<趣旨>
昨年末、下瀬美術館(広島県大竹市)がユネスコの創設した「ベルサイユ賞」「世界で最も美しい美術館」部門で最優秀賞を受賞しました。この賞は、建築の美しさや革新性を評価するもので、下瀬美術館はその独創的なデザインと瀬戸内海の自然との調和が高く評価されました。
建築家・坂茂は、瀬戸内海の島々をイメージし、水に浮かぶようなキューブ状の可動展示室で構成された美術館を設計したのです。坂が意識していたのは、サイト・スペシフィックで「世界一美しい美術館」とされるルイジアナ近代美術館(デンマーク)でした。
日本では1990年代以降、周囲の自然環境との調和を重視する美術館が建設されてきました。広島市現代美術館(黒川紀章、1989年)、DIC川村記念美術館(海老原一郎、1990年)、MIHO MUSEUM(イオ・ミン・ペイ、1997年)、島根県立美術館(菊竹清訓、1999年)、地中美術館(安藤忠雄、2004年)、長崎県立美術館(隈研吾、2005年)、横須賀美術館(山本理顕、2007年)など多くの例があり、下瀬美術館もその系譜にあります。
今回のシンポジウムでは、上記の中からいくつかの美術館の関係者に登壇してもらい、その美術館建築の実状やその美術館ならではの鑑賞のスタイル、観客の反応などをお聞きしたいと思います。
こうしたサイト・スペシフィックな美術館は、施主側の要望により、建築家の個性を前面に出して実現されたものであると同時に、観客側からも求められてきたものと考えられます。こうした美術館は観光効果も高く、多くの入館者を集めていると思われます。
ここでは、個性豊かな美術館建築によって鑑賞のスタイルが変わってきているのか、社会における美術館の位置づけにも変化があるのか、その他の課題についてもあらためて考えていきます。
<パネリストによるプレゼンテーション要旨>
山本和毅(下瀬美術館主任学芸員)
下瀬美術館は、2023年3月、広島県大竹市の海沿いの土地に開館。建築家の坂 茂が設計を手がけた瀬戸内の自然や多島美と調和する建物は、昨年末、ユネスコ創設の建築賞・ベルサイユ賞を受賞するなど、国内外から高い評価を受ける。本発表では、当館の建築や最近の取り組みを紹介しつつ、美術館の基盤となるコレクションと建築の関係について考察し、話題提供とする。
椋木賢治(島根県立美術館学芸課長)
島根県立美術館は1999年開館。宍道湖をのぞむ稀有な景観をとりいれた建築は菊竹清訓、晩年の代表作とされる。夕暮れどきの特別な時間帯を存分に楽しめるよう、閉館時間を日没後30分とする独自の運営を26年間、続けている。
野中 明(広島市現代美術館副館長)
いずれも被爆地に建つ広島市現代美術館(1988年竣工)と長崎県美術館(2004年竣工)。しかしながら片や山の頂上、片や港の水際と、その立地条件は正反対だ。今回は、二つの建築を対照させつつ、それぞれの都市において美術館が担う機能について考えを巡らせる機会としたい。
4.事務局から
◆ 新入会者のお知らせ(敬称略)
間瀬 実郎(ませ・じつろう/建築、不可能立体、デジタルアート、CG)
河野 淳(こうの・あつし/映像、音楽)
宮武 裕(みやたけ・ひろし/現代美術)
広島芸術学会