会報

No.185

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【広島芸術学会】会報第185号  2026年8月20日発行
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□目次□
1.広島芸術学会 令和8年度総会・第40回大会のご案内
2.大会研究発表要旨
3.40周年記念シンポジウム:「芸術と市民」
4.事務局から
・新入会者のお知らせ
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1.広島芸術学会 令和8年度総会・第40回大会のご案内
下記のとおり広島芸術学会 令和8年度総会・第40回大会を開催いたします。
日時:2026年9月12日(土)9:30~16:55
会場:広島県立美術館 地下講堂(広島市中区上幟町2-22)
  (※地下駐車場は、美術館の展覧会来場者多数のため利用が困難となる可能性があります。
   お車で来られる方は、近隣駐車場のご利用もご検討ください。)
«総会» 9:30~10:20
«大会» 10:30~16:55
●開会の辞 10:30~10:40
●研究発表
・研究発表1 10:40〜11:25
「<作者の死>以後のプレ近代-近代日本文学の読者として―内在-演算子-超越モデルを軸にして―」
 大山智徳(九州大学大学院博士課程単位取得退学)
・研究発表2 11:30〜12:15
「藤井松林筆「四季花鳥図屏風」(ふくやま美術館蔵)について―作品の特徴と伝来、また顕彰の歴史」
 菊地かの子(ふくやま芸術文化財団 学芸員)
― 昼休憩 12:15~13:30 ―
●40周年記念能楽公演: 13:30〜14:00
 演目:「高砂」(独吟)、「天鼓」(仕舞)
 出演者:大島衣恵(喜多流能楽師) ※仕舞地謡:山下寿水(広島県立美術館主任学芸員)
●40周年記念シンポジウム「芸術と市民」: 14:20〜16:50
 趣旨説明/司会・進行:青木孝夫(広島大学名誉教授)
 パネリスト:
  川上明孝(金沢美術工芸大学名誉教授、金沢市立安江金箔工芸館館長)
  久保田貴美子(アーティスト・比治山大学短期大学部教授)
  能登原由美 (大阪音楽大学特任教授)
●閉会の辞 16:50~16:55
 
※なお、終了後、懇親会を行う予定です。
 
2.大会研究発表要旨
・研究発表1
「<作者の死>以後のプレ近代-近代日本文学の読者として―内在-演算子-超越モデルを軸にして―」
大山智徳(九州大学大学院博士課程単位取得退学)
本報告の目的は<作者の死>以後の読者の一つの在り方を示すことにある。対象は超越と接触があり、教科書に掲載される等した作家の日本の文学作品とする。具体的にはプレ近代文学作品として桃太郎、かぐや姫 、浦島太郎とし、近代文学作品として泉鏡花の「高野聖」、志賀直哉の「城の崎にて」、芥川龍之介の「歯車」、梶井基次郎の「桜の樹の下には」、堀辰雄の「風立ちぬ」、中島敦の「山月記」、安部公房の「壁-S.カルマ氏の犯罪」、三島由紀夫の「金閣寺」 とする。方法は内在-演算子-超越モデルを構築し、この演算子の差異を基準にこれらの文学作品を分類する。ここで演算子とは内在と超越の相互生成の機制のことである。この結果、4種類の寓話類型が生成する。具体的には桃太郎は超越と触れても内在へ平然と帰還し、かぐや姫はかぐや姫という超越の象徴と出会った後、求婚者たちが破滅し、浦島太郎は超越に触れた後、預言者的犠牲になることで共同体を救済する寓話として分類できる。さらに、近代文学作品において、超越と触れた主人公は「高野聖」と「城の崎にて」では内在へと静かに帰郷し、「歯車」と「桜の樹の下には」は精神的な死を迎え、「風立ちぬ」と「山月記」は再び内在へは帰郷できず、「壁-S.カルマ氏の犯罪」と「金閣寺」は新しい超越生成の萌芽の寓話であることを示す。なお、最後の二作品は近代になって新たに成立した形式による文学作品と思われる。
 
・研究発表2
「藤井松林筆「四季花鳥図屏風」(ふくやま美術館蔵)について―作品の特徴と伝来、また顕彰の歴史」
菊地かの子(ふくやま芸術文化財団 学芸員)
 藤井松林筆「四季花鳥図屏風」(ふくやま美術館蔵、以下美術館本と呼ぶ)は、明治期に活躍の軌跡が残る福山出身の円山派絵師・藤井松林(1824~1894)が描いた六曲一双押絵貼屏風である。左右隻の各扇には、四季折々の花鳥画が一枚ずつ十二ヶ月分、計十二枚貼付されており、濃淡彩で描かれた各モチーフは、鈍色を見せる銀地背景とあいまって、瀟洒淡麗な雰囲気を漂わせる。
 松林は備後地方では比較的名のよく知られる絵師であるが、特に美術館本は備後福山藩の御絵図師だったとされる松林の晩年の優品である。と同時に昭和63年(1988)の美術館開館当初から収蔵される作品の一つでもあり、長らく美術館を代表し続けてきた。
 この度、発表者は美術館本が代々福山藩主をつとめ、維新後は伯爵の地位にあった阿部家の旧蔵品だった可能性が極めて高いことを知り得た。さらに類例の存在から美術館本が阿部家へ(少なくとも名目上は)献上というかたちで収蔵されたとも推定するに至った。しかもこの献上という行為は松林の顕彰にも大きな影響を及ぼし、弟子や市内有力者、郷土史家たちの尽力によって松林の評価が定まっていったことも分かった。
 本発表では、はじめに作品分析を行って美術館本を円山派の系譜に改めて位置づけ、続いて伝来について諸資料を挙げて阿部家へ収蔵された経緯と背景を考察する。そして最後に没後の顕彰の歴史を追う。
 
3.40周年記念シンポジウム:「芸術と市民」
<趣旨>
 広島芸術学会は創立以来、研究者を軸としつつ、作家および市民との協働によって、芸術を多角的に探究する場を築いてきた。
 会の活動を学術研究に閉じることなく、創作の現場や生活世界に根ざした知性と感性との往還を重視してきた点に、本学会の特色がある。
 本記念シンポジウムでは、この歩みを踏まえ、「芸術と市民」という関係そのものを主題として取り上げる。
ここでいう市民とは、地域的文脈を含みつつも、それに限定されない。近代社会の中で形成されてきた主体としての市民に着目し、芸術と市民との関係を根底から問い直すことを目指す。
 日本における芸術は、西欧から導入された近代芸術を基盤としながらも、日本古来の芸能や生活文化と交錯し、さらに今日ではメディアやデジタル技術の発達によって、その領域を大きく拡げている。他方、その芸術を対象としてきた芸術研究は、西欧由来の諸概念や、美術館・芸術学校・大学制度などを基盤として展開してきた。そこには、一言では語り尽くせない複雑な問題が折り重なっている。本シンポジウムは、この前提を踏まえつつ、市民という視点から、それらを日本の歴史的経験と生活世界の実感の中に位置づけ直すことを試みる。
 その際、日本および近代を主要な考察対象とし、学会の拠点である広島、そして戦後日本を一つの焦点としつつ、広島とは異なる歴史・伝統・風土をもつ地域として石川県・金沢を比較の対象とする。両地域を対照する目的は、各地域の歴史的特性や伝統の厚みといった文化の特色を列挙することではない。芸術と市民を育み、また芸術と市民によって耕され続けてきた文化土壌は、歴史や風土、教育や生活の積み重ねによって形成されてきた。その違いが芸術文化や市民意識のあり方にも反映されているからである。さらに、芸術や市民は、明治以前からの分厚い文化的基盤に根を張りながら、近代以降、西欧から吹き寄せる新たな風を受け、絶えることなくその土壌を耕し続けてきた。その営みの中から、新しい価値観や感性、さらには日本における近代芸術文化もまた育まれてきたのである。
 明治維新以降、およそ160年にわたり続いてきたこの相互形成の過程を、市民と芸術との関係という切り口から考察し、これからの社会における芸術と市民の新たな可能性を展望することが、本シンポジウムの目的である。
 
<パネリストによる発表要旨>
「金沢市民と文化政策」 川上明孝(金沢美術工芸大学名誉教授、金沢市立安江金箔工芸館館長)
 金沢では伝統工芸をはじめ能楽や茶道など芸能や芸事が今も盛んである。それは藩政期の加賀藩が取った文化政策の名残である。
 歴代の藩主は百万石の財力に物を言わせて古典古物を収集し、演能や茶に興じ、物作りを推奨した。明治以降、金沢の町はパトロンを失ったが、殿様が醸成した文化はこれを受け継ごうとした。三代利常と五代綱紀が進めた文化政策と、それを引き継ごうとする明治・大正・昭和の市民や行政の努力を追う。
 平成になると、現代美術や西洋音楽という、伝統文化と異質な芸術が持ち込まれた。金沢21世紀美術館やオーケストラアンサンブル金沢の設立は町に旋風を巻き起こした。特に工芸界との摩擦・軋轢は大きかった。しかし今では、工芸作家がオブジェを作ることも、能とオーケストラの競演も日常となった。和と洋が競合し、伝統と先端が融合する、金沢はそういう町になった。美術館とオーケストラの活動を紹介する。
 町の中心部には、県立美術館や国立工芸館の他に、鈴木大拙館、能楽美術館、老舗記念館、泉鏡花記念館、蓄音機館、金箔工芸館など、市立の多彩でユニークな文化施設が点在し、武家屋敷や茶屋街など歴史的な街並みが保存されている。
 その一方で、24時間365日フル稼働のアマチュアが自由に使える工房が用意され、伝統産業や伝統芸能の修得を目指す者への奨励制度も整えられている。
 鑑賞するにせよ実践するにせよ、金沢の芸術環境は充実していると言える。これは文化予算にも現れている。
 藩政期の文化を引き継ぎ発展させた金沢、その原動力は何であろうか。
 
「「人の営み」としてのアート」 久保田貴美子(アーティスト・比治山大学短期大学部教授)
 私は日韓美術交流展を、広島とソウルをはじめとする韓国の各地でこれまでに25回開催してきました。これは今から30年ほど前に、広島芸術学会の青木さん(現会長)から声をかけていただき日韓美学研究会に何度か参加したことがきっかけです。この研究会は日本と韓国の美学や美術史を専攻する学生や研究者が集まり、日中は延々と研究発表や討論を行い、夜は地元の美味しい料理を食べ、酒を飲み、深夜まで語り合うという、濃密な日々が続くものでした。そもそもシンポジウムという言葉は、古代ギリシャの饗宴ということで、もてなしの酒盛りという意味だそうです。まさに連日連夜のシンポジウムが続きます。この研究会で知り合った韓国の美術作家と、交流展をしたいねという話になり、それが2002年、広島で初めて実現し現在まで継続しています。このように20年以上、交流展を続けることができたのは、一言でいうと美術(アート)が「人の営み」であるからだと思います。
 美術は、それが時代の渦の中に生きる人間たちによってなされる以上、決してその時代の意味から完全に自由になることはできません。交流展を行うたびに、私たちは言葉も歴史も風土も異なる国の作家からいろいろなことを学び、気づかされます。展覧会という限定された期間だけに存在するこの空間は、やがて時間の流れとともに消え去っていきます。しかし創作の喜びや苦しみを知る人間が、同じ時間と空間を共有し、言葉や視線を交わした経験は、必ず自らの内面にある変化をもたらしてくれます。そしてそれが次の創作への思考や創造力、表現に繋がっていくのではないでしょうか。
 今回の発表では、作家としての立場から創作する意味や、普段考えていることを率直にお話したいと思います。また生成AIの出現は、私たち美術作家に大きな衝撃を与えました。生成AI時代における主体性・作者性はどのように再定義されるのかも、皆さんと一緒に考えていければと思っています。
 
「市民によって紡がれる「ヒロシマ」の音〜「ヒロシマと音楽」委員会30年の活動を通して〜」
能登原由美(大阪音楽大学特任教授)
 日本への原爆投下から80年を迎えた2025年末、「ヒロシマと音楽」委員会は30年の歴史を閉じた。同委員会は、被爆50年の節目となる1995年に、地元ラジオ局である中国放送の事業の一環として、学識経験者や広島市の関係者らを含めた「産官学」の連携によって発足したものである。その目的は、被爆地や核兵器、核戦争などを題材にして作られた音楽作品のデータベース化であり、補足活動として資料収集や音源作成のためのコンサートが行われた。その結果、1800曲余りのデータが記録され、その一部は2004年に広島市に移管された。
 筆者は、委員会発足の直後から、データベース化や資料収集の実務要員としてプロジェクトに関わり、2007年に委員長の大役をいただいてからは昨年末の閉会までその任にあった。この30年の活動を通して見えてきたのは、音楽が土地の歴史や記憶の伝達、形成に寄与する一方で、その作り手や歌い手には有名無名、プロアマの区別はなく、まさに「市民」によって継承されているという事実である。
 本発表では、委員会の30年の活動から得られた知見をもとに、「ヒロシマ」の記憶を伝える音楽創造(演奏行為を含む)の様子を振り返る。一つの土地に対してこれほど多くの音楽作品が生み出され、演奏が行われる例は世界でもあまりない。最近では、爆心地近くにあったピアノやヴァイオリンが被爆楽器として注目され、その演奏を通じて「ヒロシマ」の記憶の媒介者としての役割も果たすようになってきている。そうした活動も多くは市民によって支えられているものであり、被爆80年を経てもなお続く人々の主体的な行為には驚くべきものがある。こうした事例も踏まえながら、音楽と市民の関係について考えていきたい。
 
4.事務局から
◆ 新入会者のお知らせ(敬称略)
荒木 然一(あらき・ぜんいち/美術 絵画 日本画 現代アート)
木村 佳史(きむら・よしふみ/書道(主に篆刻))
砂田 幸恵(すなだ・ゆきえ/茶道具)
竹本 麻紀(たけもと・まき/版画)
 
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■住所、メールアドレスの変更、入退会については、下記事務局までご連絡ください。
広島芸術学会事務局
〒739-8521 東広島市鏡山1-7-1
広島大学 総合科学部 人間探究領域(人間文化)気付
E-mail: hirogei@hiroshima-u.ac.jp
https://hirogei.hiroshima-u.ac.jp/

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〒739-8521 東広島市鏡山1-7-1
広島大学 総合科学部 人間探究領域(人間文化)
Fax: 082-424-0752
E-mail: hirogei@hiroshima-u.ac.jp