会報

No.161

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【広島芸術学会】会報第161号  2021816日発行

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□目次□

1.広島芸術学会 令和3年度総会・第35回大会のご案内

2.大会研究発表要旨

3.シンポジウム:「コロナ禍に見る音楽・音楽教育活動の課題と可能性」

4.年報編集部会から

5.事務局から

  ・新入会者のお知らせ

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1.広島芸術学会 令和3年度総会・第35回大会のご案内

下記のとおり広島芸術学会 令和3年度総会・第35回大会を開催いたします。

日時:9月4日(土)10:3017:05

会場:ウェブ会議システムZoomを用いたオンライン開催

※参加方法の詳細については、開催一週間ほど前にメールなどでお伝えいたします。

«総会» 10301115

«大会» 11301705

●研究発表

・研究発表1:11301215

「佛通寺含暉院伝来の文化財の史的意義 —雲谷等顔筆襖絵を中心に

城市真理子(広島市立大学)

— 昼休憩:12151330 —

・研究発表2:13301415

「国際敦煌プロジェクトとGeorgetown-IDP Project−北米所蔵の中国北西部シルクロード関連文物について」

森田美樹(広島市立大学 元協力研究員)

●シンポジウム「コロナ禍に見る音楽・音楽教育活動の課題と可能性」:14301705

 趣旨説明/司会・進行:岡田陽子(エリザベト音楽大学)/馬場有里子(エリザベト音楽大学)

 パネリスト:

  能登原由美(大阪音楽大学/京都市立芸術大学・非常勤講師)

  寺沢希(合唱指揮者・エリザベト音楽大学非常勤講師)

  大島衣恵(喜多流能楽師)

  寺内大輔(広島大学 作曲、即興演奏、音楽教育)

2.大会研究発表要旨

・研究発表1

「佛通寺含暉院伝来の文化財の史的意義 —雲谷等顔筆襖絵を中心に」 城市真理子(広島市立大学)

 広島県三原市にある禅の名刹、御許山佛通寺は山中深くにある臨済宗佛通寺派大本山である。同地の沼田荘地頭で有力な国人領主の小早川春平が、愚中周及を招請して開いた寺で、山上にある塔頭含暉院が室町時代から江戸時代初期の建築をのこしており、応永18(1411)に含暉院の佛殿(現地蔵堂)が建立された。現在は、開山堂(室町時代応永年間)と書院(江戸時代慶長年間)とが一棟の建築となっており、内陣中央に佛通禅師(即休契了)と大通禅師(愚中周及)の木造の肖像彫刻が安置されている。含暉院は小早川春平夫人によって建立され、愚中が日常過ごす場所となり愚中の頂相一幅(重要文化財)も伝わる。江戸時代の寺宝の記録『御許山含暉禅院捴校割』によれば、木彫の座像二躯とともにこの頂相も含暉院に置かれていたことが判明する。同記録は、宝暦4年(1754)頃のものと見てよく「書院」の項には、現在も伝わっている仏画や墨蹟、位牌が記されている。佛通寺は江戸時代の二度の火災でほとんどが焼亡したのであるが、幸いにも含暉院は火災を免れた。特に、書院の襖絵は寺伝では「雪舟筆」とされるものの、従来、美術史研究者からは雪舟流を復興させた雲谷派の祖である等顔の作と認められてきており、江戸時代の襖絵配置図があるので復元できる。これら含暉院に伝来した什宝、そして書院の襖絵の多くが現在まで伝わっているということを、発表者は三原市文化課関係者の協力も得て確認でき、2018年には襖絵は三原市の文化財指定へと至った。これら含暉禅院に伝来した文化財の文化的意義について報告する。

・研究発表2

「国際敦煌プロジェクトとGeorgetown-IDP Project−北米所蔵の中国北西部シルクロード関連文物について」 森田美樹(広島市立大学 元協力研究員)

 国際敦煌プロジェクト(International Dunhuang Project)は世界に分散された敦煌を中心とした中国北西部のシルクロード関連文物をカタログ化し、その画像を無料公開されているIDPデータベースに集積することを目標としている。1994年より開始され、スタインコレクションを有する大英図書館を中心として、敦煌研究院、中国国家図書館、サンクトペテルブルク東洋写本研究所、フランス国立図書館など、各国の文献・その他文物を収蔵している図書館・博物館・美術館との協力体制を築いてきた。

 北米に所蔵されている関連文物は以前より一部コレクションの文献・絵画がIDPデータベースに入っており、引き続き複数の機関との話し合いが行われていたが、2016年よりジョージタウン大学と共同で、本格的にパートナーシップを広げることとなった。発表者はこのGeorgetown-IDP Projectにプロジェクト・マネージャーとして携わり、IDPと協力して現在までに12の機関との合意をまとめた。

 北米所蔵の文献・その他文物は各地に比較的少数で散在していることが特徴で、これまでにカタログ化・研究されたコレクションもあるが、本プロジェクトで「北米所蔵コレクション」としてのおおまかな全体像を掴めたことの意義は大きく、今後の研究に寄与できるのではないかと思う。今回の活動報告ではGeorgetown-IDP Projectの概要を中心に、北米所蔵の中国北西部シルクロード関連文物と、それらを対象に含める最近の研究、北米へ渡った経緯などを紹介したい。

3.シンポジウム:「コロナ禍に見る音楽・音楽教育活動の課題と可能性

<趣旨>

コロナ禍のもと、我々は日常の様々な活動における制約や変容を経験してきた。音楽の分野においても、活動の場や表現等、従来とは異なる形態での活動を余儀なくされる中、演奏、創作、鑑賞、教育等の現場において、オンライン等によるテクノロジーを駆使するなかで様々な試みがなされている。演奏においては、奏者間や客席とのディスタンスをとって行うものに加え、客席無観客でのライヴ配信演奏会といった形態も試みられた。教育の場においては、扱う内容やクラスの規模等によってその実情にはかなりの幅がある中、理論を中心とした授業から、個人レッスンからアンサンブル、大人数での合奏や合唱までの、実技指導を伴う授業、また講義系授業においても、文字中心のものから音楽・映像の視聴を伴う授業まで、それぞれに異なる条件のもと、模索が試みられ、現在も続いている。そうした経験は、これまでにも存在していた問題の顕在化や、従来は認識されなかった思わぬ課題の浮上といった形で、様々な課題の気付きにつながったと同時に、新たな可能性もまた、見出す契機となった。これらは、いずれコロナ禍が収束した後にも、その後の音楽文化活動において必ずや活かされていくものであろう。本シンポジウムでは、演奏活動、教育、鑑賞など複数の視点からコロナ禍でのこれまでの活動を振り返り、音楽・音楽教育における「伝える・伝わる」ということも視点の一つとしつつ、今後にむけての課題や可能性を考える機会としたい。

<パネリストによる報告要旨>

能登原由美(大阪音楽大学/京都市立芸術大学・非常勤講師)

「クラシック音楽と配信—「ポスト・コロナ」への課題と展望」

コロナ禍により、クラシック音楽界においても俄に活発化した音楽配信については、現在に至ってもなお、未整理のまま一様に「生演奏」の代替としてしか見なされていないように思われる。そこで本発表では、最初にイベント中止要請が出された20202月から現在に至るまでの様々な取り組みを見るとともに、筆者が全国の主要オーケストラに対して行ったインタビュー調査を踏まえ、音楽配信の性質や意義について改めて整理する。その上で、「伝達性」、「双方向性」、「共有性」と言った概念を手掛かりに今後の可能性について検討したい。

寺沢希(合唱指揮者・エリザベト音楽大学非常勤講師)

「コロナ禍における合唱コミュニティの維持と活動の実践について」

昨年から始まったコロナ禍はもともと個人の集団である合唱団の団員同士の価値観の差異を大きく拡大させた。結果としてコミュニティ内での分断が進みつつある。また合唱団におけるクラスターなどの発生のため一般社会に合唱が感染の危険が高い活動との認識が広まった。そのためその活動自体にも大きな制約がかかってきている。周知のとおり本来は集まって声を合わせてこそ成り立つ芸術である。このような状況の中でこの文化の維持のために行った様々な工夫、行動について紹介する。

大島衣恵(喜多流能楽師)

「オンラインで広がる新たな取り組みの意義と課題—能楽の事例から」

これまで伝統文化、特に能楽の世界では稽古は対面、舞台は一日一回のまさに一期一会の公演であることが当然のことであり、オンラインでの稽古や公演を積極的に取り入れる風潮はなかった。しかしながら昨年から続く様々な活動自粛の事態に直面し、半ば致し方なくオンラインの活用に踏み切った。現状ではYouTubeなど公演の動画配信、Zoomなどを使ってのオンライン稽古や講座の開設などに意義があると感じている。同時に課題も多く、今後のあるべきようを模索していきたいと考えている。

寺内大輔(広島大学 作曲、即興演奏、音楽教育)

「音楽表現と音楽教育を実践するうえでのオンラインと対面の特質とストラテジー」

これまで私が取り組んできた活動を振り返りながら、音楽表現と音楽教育を実践するうえでのオンラインと対面の特質とストラテジーを考えたい。音の遅延(タイムラグ)、カメラワーク、視聴環境など、テクノロジーに関わるオンラインの特性を整理するとともに、対面との違いが私たちの音楽聴取/講義受講のあり方をどのように変えるのかという問題を提起し、その一部を考察する。このことは、今後の音楽との関わり方・音楽の営み方を考えるうえで避けることのできない重要な材料になると思われる。

4.年報編集部会から

現在、広島芸術学会年報『藝術研究』第34号の編集が進んでおり、94日の大会前には刊行される予定です。今号には論文のほか、今年3月に開催された「Sweet Home──家庭の美学」をテーマとする芸術展示の報告も収録されます。お手許に届くまで今しばらくお待ちください。(年報編集部会長 柿木伸之)

5.事務局から 

◆ 新入会者のお知らせ(敬称略)

小野 萌絵(おの・もえ/日本美学、教育学、文化人類学)

村上 春海(むらかみ・はるみ/中近世の風俗表現)

耿 萌 (こう・もえ/日本東洋美術)