会報

No.165

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【広島芸術学会】会報第165号  2022年8月20日発行
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□目次□
1.広島芸術学会 令和4年度総会・第36回大会のご案内
2.大会研究発表要旨
3.シンポジウム:「広島まちなか探訪──野外彫刻、モニュメントを中心に──」
4.ホームページ部会から
5.年報第35号について
6.事務局から
・新入会者のお知らせ
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1.広島芸術学会 令和4年度総会・第36回大会のご案内
下記のとおり広島芸術学会 令和4年度総会・第36回大会を開催いたします。
日時:9月11日(日)10:30~17:10
会場:ウェブ会議システムZoomを用いたオンライン開催
※参加方法の詳細については、開催一週間ほど前にメールなどでお伝えいたします。

《総会》 10:30~11:20
《大会》 11:35~17:10
●研究発表
・研究発表1:11:35~12:20
「楽園の花──フェデリコ・フェリーニ『道』における人間本性と罪の問題──」
横道 仁志(大阪大学)
― 昼休憩:12:20~13:35 ―
・研究発表2:13:35~14:20
「レオポルド・ブルームのジェンダー・アイデンティティとインセスト」
安井 誠(宮崎産業経営大学)

 

●シンポジウム「広島まちなか探訪──野外彫刻、モニュメントを中心に──」:14:35~17:10
主旨説明/司会・進行:山下寿水(広島県立美術館)、山本和毅(一般財団法人下瀬美術館)
パネリスト:
藤井匡(東京造形大学 教授)
土肥幸美(学芸員/ヒロシマ表象文化論)
小田原のどか(彫刻家・評論家・出版社代表)
黒田大スケ(アーティスト)
石谷治寛(広島市立大学 准教授)

 

2.大会研究発表要旨
・研究発表1
「楽園の花──フェデリコ・フェリーニ『道』における人間本性と罪の問題──」
横道 仁志(大阪大学)
 『道』はフェデリコ・フェリーニの映画のなかでも彼の代表作に位置づけられ、フェリーニ研究者や批評家らが好んで取りあげる題材の筆頭であるにもかかわらず、残念ながら、いまだかつて正しく理解されたことはない。研究者らの議論は、同作品のなかから自分たちが理解できる(と思い込んでいる)場面を抜き出して並べ、ストーリーを恣意的に再構成してみせるばかりで、つまりは印象批評の域を超えていない。
 本発表では、先行研究が無意味と判断して分析を放棄してしまっている――あるいは初めから注目すらしていない――論点をも網羅して、『道』という作品全体についての統一的な読解を提示する。その論点というのは、たとえばどうしてジェルソミーナは子供たちに好かれるのかという問題であり、どうして死に際して彼女は「ここがいい」とつぶやくのかという問題であり、どうして作中に登場するふたりの尼僧が一方では醜悪に、他方では愛らしく描かれるのかという問題であり、そもそもどうしてジェルソミーナは「ジェルソミーナという名前」なのかという問題である。
 以上の問題を適切に解釈するなら、『道』は「自然本性」と「罪」という神学上の概念を秘密の主題としていることが判明する。本作はフェリーニなりの視点からのローマ・カトリック批判という意味をもつのであって、すなわち、アウグスティヌス以来の「堕罪以後の人間は自然本性そのものが腐敗している」というテーゼに対して高らかに「否」を宣言するのである。

・研究発表2
「レオポルド・ブルームのジェンダー・アイデンティティとインセスト」
安井 誠(宮崎産業経営大学)
 「私は多くの謎とパズルを入れ込みましたので、大学の先生方は今後何百年にわたって私が意図したことを議論するのに忙しくなるでしょう。それが不滅性を保証する唯一の方法なのです」(Richard Ellmann, James Joyce, 1982, p.521)──アイルランド出身の小説家ジェイムズ・ジョイスは、自身の代表作『ユリシーズ』(Ulysses, 1922)についてこう語ったとされる。以降、これまで世界中の研究者はテクストに仕掛けられた謎やパズルを解き明かそうとしてきたが、インセスト(近親相姦)もその一つである。
 例えばFord(1998)は、主人公レオポルド・ブルームとその娘ミリーとのインセストについて、テクスト上に散りばめられた様々な情報を紡ぎ合わせてその可能性を導き出している。Ford以外にも、ブルームとミリーとのインセストについて言及する研究は多く存在するが、それらに共通して見られるのがブルームを「セックスとしての男性」と規定して論じている点である。実際のところ、ブルームはテクストの中で“mixed middling” (12.1658)や“bisexually abnormal”(15. 1775)などと言われ、多様なジェンダーを表すような存在として描かれている。そういう視点に立ち、ブルームを「ジェンダー化した存在としての男性」としてインセストと関連付けるような研究はあまりない。
 本発表では、『ユリシーズ』の主人公レオポルド・ブルームとインセストについて、ブルームのジェンダー・アイデンティティという視点から再解釈を試みたい。そして「不滅性」を意識したというジョイスの芸術とはどのようなものであったか考察したい。

3.シンポジウム:「広島まちなか探訪──野外彫刻、モニュメントを中心に──」
〈主旨〉
 広島のまちを具に歩けば、様々な彫刻や慰霊碑、記念碑が目に留まる。これらは、人々に何らかの大切な記憶を喚起させる役割を担っているのであろう。有名なものも見過ごされがちなものも、改めて、その存在に着目し、複数の観点で「記憶」を読み解くことには、広島市の都市形成において美術の果たした/果たしていく役割を再検討するという今日的な意義がある。
 広島市内にある野外彫刻やモニュメントを見るとき、少なくとも2つの視点が存在する。ひとつは、被爆地ヒロシマの表象としての視点であり、もうひとつは、公共の場に置かれた美術としての視点である。
 広島のまちは、戦後、平和を象徴する都市として再建されてきた。その中で、戦争や原爆の惨禍を伝え継ぐためのモニュメントが多数設置されたのは、周知のとおりである。こうした経緯が強調されがちではあるが、一方で、1980年代には、「彫刻のあるまちづくり」が推進され、現代美術の盛り上がりとともに、野外彫刻の設置が進められた。
 以上を踏まえ、本シンポジウムは、今後のフィールドワークも見据えつつ、広島市のまちなかにある野外彫刻やモニュメントを、多様な視点から見直すことで、広島のまちと美術の関係について新たな気づきと展望が得られることを企図するものである。(山本和毅)

〈パネリスト発表要旨〉

藤井匡(東京造形大学 教授)
「広島の野外彫刻:歴史的背景からの検討」
野外彫刻には各々の設置された時代の価値観が反映されており、現在の都市には、それらの価値観が折り重なった様子が現れている。本報告では、〈設置者の望み〉と〈彫刻家の望み〉の分裂と調停という観点から、広島市内の野外彫刻を1. 太平洋戦争終結以前の銅像、2. 戦後民主主義時代のモニュメント、3. 1980年代の「彫刻のあるまちづくり」、4. パブリックアートとアートプロジェクトに分類、その歴史的背景を検討する。

 

土肥幸美(学芸員/ヒロシマ表象文化論)
「平和記念公園再考──メインコース外のモニュメントに注目して」
広島市の平和記念公園とその近辺には実に多くのモニュメントが存在しているが、一般によく知られているものとそうでないものの差が大きい。ひっそりと鎮座する「マイナーな」モニュメントを追うことで、モニュメントを建立するという平和運動の浮き沈みが見えてこないか。標準的なガイドコースからこぼれ落ち、今はほとんどの人が見過ごしてしまうこれらのモニュメントについて考察することで、モニュメントによる記憶の限界を提示する。

 

小田原のどか(彫刻家・評論家・出版社代表)
「拒絶される公共彫刻:長崎の事例を中心に」
BLM運動にも顕著なように、洋の東西を問わず、公共空間の彫刻は論争の的となり、拒絶され、引き倒しなどが行われることが少なくない。本発表では、かつて長崎で起きた母子像をめぐる彫刻と社会の衝突を手掛かりに、社会に彫刻がある意味を問う。

 

黒田大スケ(アーティスト)
「広島の考える人」
「それはなぜ設置されたのか?」野外彫刻は設置理由が不明であったり、説明があっても理解し難いものが少なくない。人々は野外彫刻に何を思い何を託すのか。本発表では、2021年に作品制作の為に実施した広島市内の野外彫刻の調査を基に、市内中心部に設置されている作者不明の「ロダンの考える人」に似た彫刻作品を取り上げ、その受容について考察する。

 

石谷治寛(広島市立大学 准教授)
「対抗記念碑、非記念碑的、公共介入の新しい形式」
19世紀に顕著になる国民の歴史的記憶を記念する記念碑に対して、それに対抗する犠牲者やそのトラウマの集合的記憶を想起するために公共に介入する芸術が実践されている。近年の議論を整理した上で、いくつかの事例をタイプに分けて考察する。

 

4.ホームページ部会から
【(ご報告) 広島芸術学会ホームページ・リニューアル版の公開】
2022年7月末、ようやく本学会ホームページのリニューアル版を公開する運びとなりました。改めまして会員の皆様にご報告申しあげます。各種機能なども整備し直し、利便性が高くなっているかと思います。過去の会報等も順次アップロードの予定です。緊急性の高い情報につきましては、可能な限り早くアップできるよう努めますが、諸般の事情で作業が遅延することもございます。どうぞ予めご容赦ください。広島芸術学会HPトップページ:  https://hirogei.hiroshima-u.ac.jp/ (ホームページ部会 桑島秀樹)

 

5.年報第35号について
 広島芸術学会年報『藝術研究』第35号は、9月初めに刊行の予定です。昨年と同じく、総会・大会終了後に、総会議事資料と併せて送らせていただきますので、お手元に届くまで今しばらくお待ちください。 (編集部会長 馬場有里子)

 

6.事務局から 
◆ 新入会者のお知らせ(敬称略)
安井 誠(やすい・まこと/アイルランド文学)

住所、メールアドレスの変更、入退会については、
下記事務局までご連絡ください。

広島芸術学会事務局
〒739-8521 東広島市鏡山1-7-1
広島大学 総合科学部 人間探究領域(人間文化)
Fax: 082-424-0752
E-mail: hirogei@hiroshima-u.ac.jp