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台風12号の影響で延期になった総会・大会を、下記のとおりに開催します。

 

 

広島芸術学会 第32回総会・大会 案内

日時:平成30年9月2日(日)
場所:広島市立大学サテライトキャンパス セミナールーム1
(広島市中区大手町四丁目1番1号 大手町平和ビル9階)
※当初予定していた広島県民文化センター内のものではありません
のでご注意ください。

≪総会≫ 9:45~10:30 (9:20受付開始)
≪大会≫ 10:45~17:00

◆ 研究発表

① 10:45~11:30 「海の見える杜美術館所蔵《十番切絵巻》について」

谷川ゆき(海の見える杜美術館 学芸主任)

② 11:35~12:20 「1960年代から1970年代のマレーシアにおける美術と社会の関係性について」

石松紀子(広島市立大学)

<昼休憩:12:20~13:30>

③ 13:30~14:15 「障がい者の創作活動支援について」

  宮地英和(広島経済大学)

<休憩:14:15~14:30>

 

◆ シンポジウム「明治維新150年に住宅建築・住まい方の問題を考える」 14:30~17:00
共   催=近代建築福山研究会
司   会=松田 弘(東広島市立美術館 館長)
 
パネリスト=
谷藤史彦(ふくやま美術館 相談員・前副館長)
千代章一郎(広島大学 准教授)
前田圭介(建築家・広島工業大学 教授)
中村 圭(広島市立大学 講師)

※前田圭介氏は新日程での登壇調整が付かず、当日は欠席。上田寛之氏(UID建築設計事務所)が前田氏の発表原稿を代読。

※ 懇親会:大会終了後、会場の近くで懇親会を予定しています。

★ 参加申込み方法
総会・大会(研究発表・シンポジウム):
参加費無料、申込み不要。当日、会場に直接お越しください。

 

 

● 大会研究発表要旨

 

 

① 海の見える杜美術館所蔵《十番切絵巻》について

谷川ゆき(海の見える杜美術館 学芸主任)

建久4年(1193)5月28日、曽我十郎祐成、五郎時致兄弟は、源頼朝が富士山麓で行った巻狩に参加していた工藤祐経を夜討ちし、かねてからの悲願であった父の仇討ちを遂げた。この史実を元に創作された曽我兄弟の仇討ちの物語は、中世を通して唱導として語られ、『曽我物語』というテキストとして読まれ、また、能や幸若舞、近世に入っては浄瑠璃や歌舞伎などの芸能の演目として広く親しまれた。これを題材にした絵画は遅くとも15世紀後半から制作されていたことが史料から知られる。現存作例は、室町時代に遡るものは少ないが、17世紀に入ると屏風、絵巻絵本、そして版本の挿絵などの形でその数を急速に増す。

 海の見える杜美術館所蔵の《十番切絵巻》(2巻)もそのひとつで、幸若舞曲の曽我物のうちのひとつ「十番切」を絵画化したものである。上巻では、兄弟が祐経を討った後頼朝陣中に攻め入り、10人を退けつつも兄十郎が討たれるまでを、下巻では、ついに捉えられた弟五郎が頼朝の助命の申し出を退けて処刑され、感銘を受けた頼朝によって兄弟が富士山麓に祀られるまでを描く。画面と詞書料紙ともに金泥がふんだんに使われており、江戸時代前期に盛んに制作された豪華絵巻の一作例とできる。本発表では、本作の作品紹介を兼ねて、その図様およびテキストと絵画表現の関係を分析し、曽我物語絵画の系統の中で本作が占める位置を考察する。

 

 

② 1960年代から1970年代のマレーシアにおける美術と社会の関係性について

石松紀子(広島市立大学)

マレーシアは、1957年にイギリスの植民地支配よりマラヤ連邦として独立するが、1960年代をとおして統一や分裂を繰り返し、現在のマレーシアとして国家が成立するのは1965年のことである。独立に伴い、ヨーロッパやアメリカに留学する美術家たちが現れ、彼らは現地で欧米の美術を受容しながら、抽象表現主義や構成主義といった新たな美術様式をマレーシア美術界に導入していった。

 しかし、1969年に首都クアラルンプールで民族衝突が起き多くの犠牲者が出たことは、美術界にも波紋をひろげることになる。これを契機に、多民族からなるマレーシア社会を一つにまとめるため、1971年に民族文化会議が開催され、共通した文化的アイデンティティの必要性が求められる。さらに同年に民族文化政策が制定されると、多くの美術家たちが作品をとおして文化的アイデンティティを追求するようになる。

本発表では、マレーシアが国家として建設されていく1960年代から、文化政策が制定される1970年代の美術に焦点をあて、マレーシアにおける社会と美術の関係性について検証する。これまでの日本や欧米の美術史研究では、アジアの美術を同時代のものとして捉える視点が欠けていたため、この考察をとおしてアジアの美術動向が欧米のそれとどのような連続性を持ち、また拒絶されていたかについて相互関係を理解することで、同時代の美術として捉えていくことの重要性を明らかにしたい。

 

 

③ 障がい者の創作活動支援について

宮地英和(広島経済大学)

障がい者の作品は、アール・ブリュット等の解釈のもとでその芸術性や独自性について注目されてきた。近年では、作品をアートとして再評価する試みや商品のデザインに利用するなど、障がい者の創作活動を支援する様々な取り組みが行われている。しかし、福祉施設や作業所の余暇活動やセラピーの副産物であった障がい者の作品については、創作活動の環境整備や二次利用に伴う著作権の問題などが残っている。

 本発表では、まず、障がい者の作品に芸術的な価値が認められてきた歴史的文脈を概観した上で、障がい者をアーティストとして認めて創作活動を支援する施設や、作品をアートとして展示する美術館の取り組みについての調査を報告する。また、産学協同プロジェクトによる障がい者の作品を使用したデザインの事例を分析し、創作活動支援の新たな可能性と二次利用に伴う著作権の問題や就労支援の問題について考察する。これらを踏まえて、発表者自らによる障がい者の創作活動支援を目的としたプロジェクトの実践とその成果を紹介し、今後の課題を具体的に指摘していく。その結果、障がい者の創作活動支援においては、彼らの表現の意味を障がいの有無に関係なく柔軟に理解し、彼らとの共感のもとで環境整備をしていくことが必要であり、その支援の根幹は、誰もが差別を意識することなくノーマルな生活を送ることができるノーマライゼーションの理念に合致すべきであることを主張していきたい。

 

 

● シンポジウム:「 明治維新150年に住宅建築・住まい方の問題を考える 」

<趣旨>

 本年は、明治維新から150年という節目であり、日本の近代化の歩みを振り返るよい機会となる。

 私たちの暮らし方、住まい方、住宅建築は、どのような変遷を経て現在の形に至り、どのような問題を抱えているのか、改めて考えてみたい。

  歴史を振り返れば、明治期の建築は、工部大学校が設立され、コンドルが招聘されて、その教育が始まった。そこから辰野金吾が輩出し、帝国大学工科大学設立後に教授として洋風建築を引き継いでいく。当時の代表的な住宅、コンドル設計の岩崎邸は、客室・大食堂を擁する洋館で、和館も備えた大邸宅建築であった。ただ一般の暮らしは、江戸時代の生活スタイルのままで、勤労者たちの住宅が近代化に踏み出すのは、大正期になってからであった。その頃、非衛生的な生活が課題となっており、ヴォーリズおよび橋口信助の「あめりか屋」などは、洋風住宅を推進させた。これに対して藤井厚二は、日本の気候にも、趣味にも合わないとして洋風を退け、和風住宅の改良を提案した。堀口捨己は、これを引き継ぎ、新しい数寄屋としていく。

 第二次大戦後は、コルビュジエの影響を受けた前川國男や丹下健三らのモダニズム建築が影響力をもち、それぞれの建築家も自邸をつくり、モダニズムの要素を和風住宅に持ち込みながら、新しいスタイルの住まい方を模索した。さらに戦後の住宅難の状況のなか、狭小な住環境を工夫する増沢洵の最小限住居などが出現するとともに、住宅公団の2DK団地も供給され始め、核家族化が進むとともに、独居老人などへの対応も注目されるようになってきている。

 本シンポジウムでは、日本の住宅建築および住まい方の変遷について、3つの時期に分けて考えていきたい。大正期を中心とする戦前期、1950-60年代を中心とする戦後期、そして21世紀を迎えた現代である。これらの議論のなかから、21世紀の住い方の問題、つまり住民の高齢化や孤立、外国人の居住の問題などにも触れていきたい。

 

 

<パネリスト報告要旨>

1 戦前期の住宅建築(谷藤史彦)

大正期における衛生問題の解決策として、改良住宅が叫ばれ、橋口信助やヴォーリズなどは洋風住宅を推奨した。一方で、洋風住宅への盲従を批判したのが藤井厚二。和風住宅を科学的な目で見直し、新しい「日本の住宅」を提案。その要が、椅子座式と床座式の併用、および日本趣味であった。堀口捨己など現代の数寄屋の系譜に繋がる戦前期の住宅を探る。

2 戦後の住宅建築(千代章一郎)

第二次世界大戦後の日本の建築の歴史は、戦後復興という社会的問題に直面しながら、アメリカニズムを受容しつつ変容していく。それは戦前の西洋化とは異なる様相を見せ、建築のノーマライゼーションが進んでいく過程であった。しかしそれは、はたして「すまい」の規格化であったのであろうか。

3 現代の住宅建築(前田圭介)

福山市鞆の浦に建つ建築家 藤井厚二設計の別荘は「聴竹居」を彷彿とさせながらも、発見当時は80年の年月を経て過半が朽ち果てた状態であった。僅かに残存する建物から藤井厚二の建築・環境に対する思いを読み解き、壮大な庭と合わせて新たな空間へとコンバージョンした軌跡を紹介したい。また、実作を通してこれからの住宅の可能性について一緒に考える場としたい。

4 現代の住宅問題とアート(中村 圭)

1978(昭和43)年度より開始した基町地区再開発事業により、基町住宅地区が完成した。竣工から40年が経った今日、同地区は地域コミュニティの活力低下や商業の停滞などの課題を抱えている。こうした課題に対する様々な取組がある中で、若者を中心とした創造的な文化芸術活動を通じて、“にぎわいの再生”に取り組む基町プロジェクトについて紹介する。

 

 

● 第123回例会報告

◇ 海の見える杜美術館「香水瓶の至宝~祈りとメッセージ~/知られざる竹内栖鳳―初公開作品を中心 に―」見学

報告:大島 徹也(広島大学大学院総合科学研究科 准教授)

5月26日開催の第123回例会では、海の見える杜美術館(廿日市市)を、城市真理子氏(広島市立大学准教授)の案内のもと訪問した。参加者数は12名。

まず、2018年3月のリニューアルに際して新設された竹内栖鳳展示室での展示「知られざる竹内栖鳳―初公開作品を中心に―」を、同館学芸員の青木隆幸氏に解説していただきながら見学した。竹内栖鳳(元治元年~昭和17年)といえば「東の大観、西の栖鳳」と言われたほどの日本画の巨匠だが、日本美術院の寺崎広業との交流、西洋の油彩画技法や写真技術に対する関心等についても、今回の展示で実作品や関連資料を通して深く知ることができた。

続いてリニューアルオープン記念特別展「香水瓶の至宝~祈りとメッセージ~」を、当学会会員で同館学芸員の森下麻衣子氏の解説とともに見学した。展示されている香水瓶は古代エジプトから現代までと幅広いが、門外漢の私にとって興味深かったのは、香水瓶の意匠にも、その時代のデザインやアートとの関係性が感じられたことだ。また、優れた調香師のことをフランス語で「le nez」(鼻)と呼ぶのはたまたま知っていたが、今回森下氏より、香水の意のフランス語「parfum」/英語「perfume」は、ラテン語の「per」(~を通して、~によって)+ 「fumum」(煙)という表現に由来することを教えていただいた。

来館者用駐車場から美術館正面玄関まではシャトルバスが走っているが、プロムナードがあるので、行きか帰りのどちらかは、そこを歩くのが良い。梅、桜、ツツジ、紫陽花など、さまざまな花木が植えられていて、それぞれの季節の美しさを楽しむことができる。また、所どころに野外彫刻(海の見える杜美術館彫刻ビエンナーレの受賞作等)が設置されている。

この度、海の見える杜美術館の青木隆幸さんと森下麻衣子さんには、大変お世話になりました。お忙しいなか細やかにご対応してくださり、深く感謝申し上げます。

 

 

● インフォメーション

【会員による出版】

 会員の樋口聡氏、西原大輔氏が、以下の著書を出版されました。

・樋口聡編著『教育における身体知研究序説』(創文企画、2017年10月)

・西原大輔著『本詩取り』(七月堂、2018年1月刊)

※ 会員の皆さまの活動(出版、作品展、コンサート、受賞、等々)について、随時、会報にて告知いたします。掲載事項のある方は、どうぞご遠慮なく、事務局または会報部会までご一報ください。

 

 

─事務局から─

◆ 【重要】会報の電子化とe-mailアドレスの登録 (再掲)

 

会報電子版を受け取るためのe-mailアドレスを未登録の方は、登録希望のe-mailアドレスを事務局(hirogei@hiroshima-u.ac.jp)にお知らせください。お知らせがない場合は会報を配信することができませんので、どうぞよろしくお願いいたします。現時点では、151号(2019年2月頃発行)から電子版となる予定です。

(事務局長・大島徹也)

 

 

─会報部会から─

◆ チラシ同封について

会報の送付に際して、会員の方々が開催される展覧会・演奏会などのチラシを同封することが可能です(同封作業の手数料として、1回1,000円をお願いいたします)。ただし、会報の発行時期が限られるため、同封ご希望の場合は、あらかじめ下記までお問い合わせください。次号の会報は、8月下旬の発行を予定しています。

◆ 催しや活動の告知について

会員に関係する催しや活動を、会報に告知・掲載することが可能です。こちらについても、ご遠慮なく、下記までご連絡、お問い合わせください。

(馬場有里子090-8602-6888、baba@eum.ac.jp)

研究発表募集

本学会は、随時、研究発表を募集しています。研究発表申し込み手順については、下記をご参照ください。 その他詳細は事務局までお問い合わせください。

(1)研究発表主題、600字程度の発表要旨に、氏名、連絡先、所属ないし研究歴等を明記の上、 事務局宛てに、E-mailにてお申し込みください。

(2)委員会で研究発表の主題および要旨を審査の上、発表を依頼します。