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● 巻頭言

自分のタグを増やす

今井みはる((公財)みやうち芸術文化振興財団・アートギャラリーミヤウチ学芸員)

10年後の自分はどのように生きているのか。

最近パラレルキャリア、プロボノという働き方が推進され、そして定着しようとしてきています。副業ではなく複業にすることや、自分のスキルを無償あるいはそれに近い報酬で社会貢献するという働き方。希望の会社に就職できたけど定年を迎える前に会社がなくなる、一方でおばあさんが自分でつくった小物や絵の画像をTwitterであげてバズっている様をみると、時と場合によって肩書きを変え、スキルが適合するかもしれないフィールドには積極的に参加することが必要なのでしょう。教育改革実践家の藤原和博氏は、AI時代には情報を処理する力から編集する力が求められ、自分がレアカードになっていくことが重要だと述べています。それは1/100万の存在になる、つまりオリンピック選手並の存在・・・。今から無理ですが3つの分野でそれぞれ1/100人になれば、不可能ではないと。

生き方が働き方になってきた現在、マスメディアや周りでも、この人は何屋さん?っていう人を多く見るようになり、例えば個人事業になると屋号が職種なのだろうと思えるぐらいです。私は大学院修了と同時に作品をつくることを辞め、暫定的にアートコーディネーターという肩書きで活動しています。何をする仕事なのかを一言で語れずにいましたが、次第に広島ではレアな職業になるかもという期待と、逆にすぐになくなる仕事かもしれないというある種の楽観さによって、目先の損得で選ばないという選択で、雑食的に自分のできることを増やしていったように思います。アーティストも、アトリエに留まることなく、レジデンスに参加、キュレーションをしたりスペースを構えたりギルドを結成したりと、美術館やギャラリーで展示、所属することより、自分のビジョンをマネジメントしていく生き方が広がってきています。私はクラウドソーシングを利用してデザインの仕事を受けることもあり、自分でマッチングする仕事を探すなか、実に新規事業が多く驚きます。ビジョンが明快なほど依頼内容がわかりやすく、困っているのではなく、よくするための手段として外部に仕事を依頼しているという印象を受けます。アートギャラリーミヤウチでは、自主企画よりアーティスト企画をコーディネートすることに赴きを置いていますが、作家によって目的やビジョンが違うため、こちらのすべきことも明快になり、効果的なフィードバックも行える気がします。

さて、10年先のビジョンとは。20年前ぐらいから地域活性、障がい者支援などの事業で文化芸術の専門性を求められるなかで、複数の領域を横断しながら現場で運営するマネジメントの人材はあまり増えてなく、広島にゆかりある作家、演者を現場で支援し、県外国外へ繋げていく仕組みも充実していません。インフラを整える中間支援組織は益々需要が高まると思いますが、一つの目標として実行部隊が集う組織は少しずつ形にしていきたいです。ビジョンやスキル自体が肩書きとなるよう、まずは自分に付くタグの数を増やしていきたいものです。

 

 

● 平成30年度総会・第32回大会報告

【総会】

平成30年度総会は以下のとおり行われた。(当初、7月29日にサテライトキャンパスひろしま大講義室502で開催予定だったが、台風12号の影響のため、下記のように変更。)

・日時:平成30年9月2日(日)9:45~10:30
・場所:広島市立大学サテライトキャンパス セミナールーム1

 

・次第:
 1 開会のことば  事務局
 2 会長挨拶    青木孝夫会長
 3 議長選出    末永航氏を議長に選出した。
 4 議事

第1号議案 平成29年度事業報告並びに決算について

 

資料にもとづき、事業報告および決算報告が大島徹也事務局長からなされた。続いて、監査報告が船田奇岑監査からなされた。審議の結果、平成29年度事業報告並びに決算は承認された。

第2号議案 平成30年度事業計画並びに予算案について

 

資料にもとづき、事業計画および予算案について大島事務局長から説明がなされた。審議の結果、平成30年度事業計画並びに予算案は承認された。

 

第3号議案 委員選挙および平成30・31年度役員について

平成30年度はじめに実施された委員選挙の結果と会長・副会長の選任等について、大島事務局長から報告がなされた。選挙により選出された委員は青木孝夫、大島徹也、桑島秀樹、城市真理子、末永航、菅村亨、関村誠、谷藤史彦、馬場有里子、山下寿水の10名で、これらの委員の互選により、青木孝夫が会長に、末永航が副会長に就任した。その後、会長が指名し総会による承認を必要とする委員5名には伊藤由紀子、今井みはる、柿木伸之、西原大輔、福田道宏、委員会が選出し総会による承認を必要とする監査2名には樋口聡、船田奇岑が選ばれたことが大島事務局長から報告され、審議の結果、承認された。また、会長が指名する幹事に石松紀子、兼内伸之介、山本和毅の3名、事務局長に大島徹也、事務局員に菅村亨と石松紀子が就任したことが大島事務局長から報告された。

 

  5 閉会のことば  事務局
・出席者:23名

 

【大会(研究発表・シンポジウム)】

第32回大会は以下のとおり行われた。(当初、7月29日にサテライトキャンパスひろしま大講義室502で開催予定だったが、台風12号の影響のため、下記のように変更。) ・日時:平成30年9月2日(日)10:45~17:00 ・場所:広島市立大学サテライトキャンパス セミナールーム1 ・内容:研究発表3件、シンポジウム1件(詳細は別添資料に掲載) ・参加者:33名。

 

 

● シンポジウム報告:「明治維新150年に住宅建築・住み方の問題を考える」

共催:近代建築福山研究会

パネリスト:谷藤史彦(ふくやま美術館 相談員・前副館長)

千代章一郎(広島大学 准教授)

前田圭介(建築家・広島工業大学 教授)

(日程変更の都合により、上田寛之氏(UID建築設計事務所)が発表原稿代読)

中村 圭(広島市立大学 講師)

報告:宮地 功(福山大学教授、近代建築福山研究会委員)

 

 最初に、谷藤史彦氏より「戦前期の住宅建築」について報告があった。

   大正中期に、建築にかかる衛生問題への関心が高まり、衛生に配慮を欠いた「不良住宅」に対し、「改良住宅」が提唱され、住宅改良が注目された。その結果、先進的なものとして、西洋家政学を取り入れた住宅や、アメリカ式住宅が建てられた。建築家などにより「吾家の設計」「楽しき住家」などの出版や、「住宅改善の方針」などの発表も行われ、それぞれに理想的な改善案を提唱した。これらはいずれも洋風住宅を推奨しているが、藤井厚二は洋風住宅への盲従を批判した。藤井は、和風住宅を科学の視点で見直し、現在の建築環境工学の基を築き、庶民向けに「日本の住宅」を著し、自邸「聴竹居」で具体的に日本の住宅を提案した。その要は、椅子座と床座の併用と日本趣味であった。その後、堀口捨己、吉田五十八、村野藤吾は、戦前期から数寄屋を発展させ、現代につながっている。

 つづいて、千代章一郎氏から「戦後の住宅」について報告があった。

 戦前、丹下健三、前川国男らによりモダニズムがけん引されたが、敗戦により状況が大きく変わった。戦後復興という社会的問題に直面し、400万戸を超える住宅供給が緊急の課題であった。1,950年代には住むことを原理的に考えなおす中で、「最小限住宅」が提唱され、1960年代には、生活の可変性の視点から、メタボリズムが提唱された。これらの動きは、戦前の西洋化とは異なり、アメリカニズムを受容しつつ変容し、建築のノーマライゼーションが進んでいく過程でもあったが、それは「すまい」の規格化を目指すものであったのであろうか、との指摘があった。

 3題目は、前田圭介氏(代理上田寛之氏)により、建築家の立場から「現代の住宅建築」について報告された。

 福山市鞆の浦で、藤井厚二の「聴竹居」に酷似し、藤井の設計と考えられる藤井家の別荘が発見された。80年を経て、過半が朽ち果て倒壊していたが、藤井の提案する「縁側」はかろうじて原形をとどめていた。復元か建替えかの議論のなかで、僅かに残存する建物から、藤井の建築・環境に対する思いを読み解き、壮大な庭と合わせて新たな空間へとコンバージョンするという道が選択され、「後山山荘」として完成した。建築家として、建物の完成を区切りとするのではなく、住宅としての用途は維持しながら、別荘の新たな活用の試みも行っている。

 最後に、中村圭氏から「現代の住宅問題とアート」について報告があった。

 1978年度からはじまった基町地区再開発事業により、基町住宅地区が完成した。40年がたち、高齢化、老朽化、経年による間取りの陳腐化、商業の停滞、公営住宅であるが故の入居者が抱える問題など多くの課題を抱えている。種々の課題、取り組みがある中で、若者を中心とした創造的な文化活動を通じて「にぎわいの再生」に取り組む「基町プロジェクト」を行っている。空き店舗を活用し、プロジェクト基幹拠点をベースに、創造と交流、食との交流、展示と交流のための活動拠点をつくり、さまざまなイベントを催し、「もとまちタイムズ」で情報発信を行っている。「基町プロジェクト~施策展開を図っていくための方向性と基本コンセプト~」を策定し、長期的な視点から活動を行っている。

 報告後、会場からは、住宅の公共性、作品としての住宅(作家性)と住むということ、具体的な衛生と健康という概念、などについて意見がでた。

住宅は、「住む」ということに向き合う中で設計、建築されてきた。しかし、戦後復興の中で、雨露をしのぐ場所の確保が急務とされた。戦後の住宅建設は、量的確保のための工場生産をきっかけに、人が住む場所として、歴史、人情、風俗、習慣、気候、風土に根ざした個性を持った住宅から、画一化された「商品としての住宅」に変容していった過程でもあったのではなかろうか。

 

 

広島芸術学会 第11回芸術展示〈制作と思考〉

「再考!人間と自然」

開催要項


1展覧会名:広島芸術学会 第11回芸術展示〈制作と思考〉 「再考!人間と自然」
2 主催: 広島芸術学会
3 会期: 2019年3月5日(火)~3月10日(日) 
4 会場: 広島県立美術館県民ギャラリー(〒730-0014 広島市中区上幟町2-22)
5 開場時間: 9:00~17:00
6 入 場 料: 無料

7 趣  旨:

広島芸術学会は、「市民に開かれた学会」をモットーとして、1987年に設立された。また1996年以来、会員の美術作家たちを中心に毎回新しいテーマの「芸術展示」を隔年開催してきたが、今回の第11回展は、「再考!人間と自然」をテーマとして開催したい。

戦後美術の美術批評家と活躍していた針生一郎が「人間と自然」というテーマを立てたのは1971年の第10回現代日本美術展でのことであった。「人間と自然との関係は、…芸術の永遠のテーマだといっていい。だが、公害や環境汚染の問題をきっかけとして、自然への新しい関心が高まっている…」と述べた。

それから半世紀を経た今、人間の経済活動はグローバルに拡大していき、自然環境にさらに大きな負荷をかけ続け、地球規模での温暖化をもたらすようになってきた。それは異常気象という形で人間社会に襲いかかる事態になってきている。この夏の西日本豪雨は、広島県内をはじめ岡山県、愛媛県にも甚大な被害をもたらし、未だにその復旧復興の苦労が続いている。さらに関西を中心に来襲したスーパー台風は、関西国際空港などに高潮および暴風被害などをもたらした。これらは異常気象が大きな要因であるとされている。

このような時期、芸術に関わるものとして、「人間と自然」の関係をもう一度考え直すような展覧会を開催したい。私たちに迫りくる異常な事態を芸術的な感性で独自にとらえ、それを再解釈して芸術表現として発信していく機会としていきたい。

本展において、広島芸術学会会員を中心とした約15名の作家たちによるそのような作品群を展示し、広く県民にご覧ただき、「人間と自然」の関係を再考する機会としたい。

8 出品作家:15人程度
会員の美術作家 および 非会員の美術作家 2~3人
9 関連催事:アーティスト・トーク 「自作を語る」
2019年3月10日(日) 14:00~
  10 問合せ先: 谷藤史彦、 山本和毅 
(tn1720@yahoo.co.jp にご連絡いただければ、応募要項をお送りいたします)

 

 

─事務局から─

◆【重要】会費の納入

平成30年度会費の払込取扱票が同封されています。それをお使いになって、会費を本年10月31日までにご納入ください。過年度の未払い分につきましても、同一の払込取扱票で合わせて納入していただけます。当学会の会計年度は、毎年7月1日から翌年の6月30日までとなっています。会費の納入状況を確認したい方は、事務局(hirogei@hiroshima-u.ac.jp)にお問い合わせください。

 

◆ 住所・所属等の変更

ご住所、ご所属等の変更がありましたら、事務局までお知らせ下さい。

 

◆ e-mailアドレスの登録(再掲)

会報電子版を受け取るためのe-mailアドレスが未登録の方は、登録希望のe-mailアドレスを事務局(hirogei@hiroshima-u.ac.jp)までお知らせください。会報は、151号(2019年2月頃発行)から電子版となる予定です。

(事務局長・大島徹也)

 

◆ 新入会者のお知らせ(敬称略)
菊地 かの子(きくち・かのこ/近世初期狩野派の障壁画)
谷川 ゆき(たにかわ・ゆき/日本美術史〔中世・近世絵画〕)
宮地 英和(みやじ・ひでかず/視覚伝達デザイン、ユニバーサルデザイン)
盧 濤(ろ・とう/中日言語文化比較論、異文化コミュニケーション論、異文化接触)
森田 美樹(もりた・みき/仏教美術史、中央アジア〔シルクロード〕・中国美術史)
羅 書洋(ら・しょよう/設計美学、環境美学)
常 乃方(じょう・だいほう/映画、美学)
孫 魚翌(そん・ぎょよく/日本文学、美学)

 

─会報部会から─

・チラシ同封について 会報の送付に際して、会員の方々が開催される展覧会・演奏会などのチラシを同封することが可能です(同封作業の手数料として、1回1,000円をお願いいたします)。ただし、会報の発行時期が限られるため、同封ご希望の場合は、あらかじめ下記までお問い合わせください。次号の会報は11月上~中旬の発行を予定しています。 

(馬場有里子090-8602-6888、baba@eum.ac.jp)

 

 

― 次回第124回例会のご案内 ―

下記のとおり第124回例会を開催いたします。どうぞ多数お集まりください。

 

山口県立美術館

展覧会「没後400年 雲谷等顔展」 および コレクション展「修理完成記念 雪舟《山水図巻》の謎」の鑑賞と トークイベント「日本美術応援団 雲谷等顔を応援する in 山口!!」

雲谷派の祖・雲谷等顔(1547-1618)の没後400年にあたる本年、同館では34年ぶりとなる大回顧展が開催されます。等顔は毛利輝元のお抱え絵師であり、また、雪舟の後継者として水墨画を本領とした、桃山時代の巨匠です。アメリカからの里帰りする代表作や京都の寺院に伝来した作品のほか、広島県三原市・佛通寺襖絵も展示されます。また、コレクション展、「修理完成記念 雪舟 《山水図巻》の謎」も併せて鑑賞することができます。

また、美術史家 山下裕二氏と雲谷派など桃山絵画研究で知られる山本英男氏のトークイベントにも参加することで、展覧会への理解を深めることができます。


日時 2018年11月3日(土・祝)12:00(集合)~16:00(解散)
会場 山口県立美術館 〒753-0089 山口市亀山町3-1  Tel: 083-925-7788
   山口県教育会館 〒753-0072 山口県山口市大手町2-18 Tel: 083-922-5766

特別展観覧およびトークイベント参加費 1300円(一般)/1100円(シニア・学生) (コレクション展の観覧料は、例会当日11/3が教育文化週間のため、無料となります。)
※ シニアは、70歳以上の方。
※ シニア、学生は学生証など年齢を証明するものを持参。
※ 招待券や前売り券等の利用により当日の観覧料が不要の場合は、イベント参加費500円のみです。

 

■集合
○とき
2018年11月3日(土・祝)12:00頃
○場所
山口県立美術館 正面玄関エントランスに集合

 

■交通
○電車 JR新山口駅から山口線に乗り換え山口駅下車、徒歩約15分。
○自家用車 特設駐車場(200台)は無料。
※山口県立美術館ホームページ アクセス情報
http://www.yma-web.jp/info/access.html

 

■観覧内容・スケジュール
○展示観覧 12:00~13:40
山口県立美術館「没後400年 雲谷等顔展/ 修理完成記念 雪舟 《山水図巻》の謎」
 ~会場移動(徒歩数分)~
○関連イベント参加 14:00~15:30
山口県教育会館 トークイベント「日本美術応援団 雲谷等顔を応援する in 山口!!」
○解散 16:00

 

■申込み
メール宛先 :hirogei@hiroshima-u.ac.jp
※お名前、緊急連絡先、料金区分(一般あるいは学生・シニア)を明記して、ご連絡ください。
締切:10月23日(火)