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【広島芸術学会】会報第155号 2019年11月15日発行
1.第129回例会(12月15日)のご案内 下記のとおり第129回例会を開催いたします。どうぞ多数お集まりください。
●15:00~16:00:研究発表1 「性別の曖昧化から見る美意識の多様性―ACGN(※1)領域を中心として―」 和暁?(広島大学総合科学研究科人間存在領域博士課程後期) ACGN、つまりアニメ、コミック、ゲーム、ライトノベルなどの二次元のサブカルチャーにおける世界観では、映画や一般小説とは違う「個性」が存在している。近年、メディアミックスの発展に伴い、ACG文化(またはACGN文化)における作品は大量に生産されている。グローバル化の影響により多文化の交流と共に、作品の題材も日々多様になっている。その一つとしての「男装女子」という要素が、1953年の『リボンの騎士』(手塚治虫)の連載を皮切りとして徐々に流行し始める。 勿論それは外見から判断する「性別」だけではなく、より深く心理的な「性転換」も含めている。そして今、社会で話題となっている「ジェンダー」問題も人々の注目を集め、創作の境界線を広げた。かつて男性を主人公にした場合が多かったACGN領域では、女性の主人公も台頭する。昔からある「王子が姫を救う」というモチーフの枠から外れ、「姫が王子を救う」、「王子が王子を救う」(≒BLというジャンル)、または「姫が姫を救う」(≒百合というジャンル)という新たなジャンルが生じる。さらに、男女という概念にこだわらず、キャラクターの性別が曖昧化されることも多い。すなわち、書き手はそのキャラクターの性別(特徴)を意図的に曖昧化し、時に読者が読んでから自分の好みでその人の性別を決めることもある。または最初からそのキャラクターに「性別無し」(例えば漫画作品『宝石の国』(市川春子、講談社、2012~))、「性別が可変」(例えばアニメ作品『シムーン』(スタジオディーン、2006)などの要素を付ける。 戦後の日本に焦点を当ててみると、「女装男子」という社会問題を研究対象として扱うこともできる。ほかに、古来の歌舞伎や歴史のある宝塚歌劇団などの役者が「性別単一」のグループに所属し、己の性的アイデンティティーを変化させる例もある。「二次元」における「性」の変容は、日本社会からの大きな影響を受け入れた結果とも考えられる。 今迄、ACGN領域で「女装」や「男装」に関する研究は多いが、「性別が不明なキャラクター」(あるいは「無性別」=エイジェンダー/ジェンダーレス)に関する研究はまだ少ない。本論文では、まずは、ACGN領域内の作品に関する「性別」の多様性を類分けし、具体例を挙げつつ、その作品・キャラクター作りを分析する。そして「ジェンダー」に関連する歴史的、社会的視点を踏まえ、読者の受容の観点から、近年のACGN領域におけるキャラクターの美的変容の傾向及びその方向性を分析し検討する。 ※1:ACGN(A=アニメC=コミックG=ゲームN=ライトノベル)は、中国語圏において主に使用されている専門用語。「二次元世界」とも呼ばれる。一部のサブカルチャーの総称として理解することもできる。
●16:00~17:00:研究発表2 「清代中国1枚摺版画の諸相」 青木隆幸(海の見える杜美術館学芸員) 清代中国の1枚摺版画は、古くは「世界美術全集別巻第8巻 東洋版画篇」(平凡社1931)や「支那古版画図録」(美術研究所編輯 美術懇話会1932)などの出版物、「中国の明・清時代の版画」(大和文華館1972)、「蘇州版画」(王舍城美術寳物館 現海の見える杜美術館 1986)などの展覧会によって存在が明らかになり、天理図書館をはじめ大英図書館など国内外にコレクションがある事もまた知られるようになりまオた。しかしながら、管見の限り、出版物等で確認できる作品は500~600点ほどに限られるうえ、作者や制作年代、生産地域が明確な作品が少なく、中国1枚摺版画を積極的に美術史上に位置付けることには基礎研究上から多くの課題が残されています。 それでもなお、中国の宮廷絵画、日本の初期浮世絵、インドの更紗、西洋の陶磁器、近代ヨーロッパ絵画ほか、世界の美術シーンと直接的な関係を無視できないことを示す作品がある事もまた事実であり、「錦絵と中国版画展-錦絵はこうして生まれた-」(太田記念美術館2000)や「亜洲探険記 十七世紀東西交流伝奇」(國立故宮博物院 2018)などの展覧会で取り上げられています。 このたびは、近年の研究や展覧会の成果を踏まえつつ、未だ出版物等で公開されたことの無い新出作品も交えて清代中国1枚摺版画の全体像を俯瞰するとともに、版画として量産されて世界各地へ伝播したさきで起きた事象の概観をおこない、清代中国1枚摺版画の諸相をとらえる試みをおこないます。
2.懇親会(第129回例会)参加申込についてのご案内 第129回例会の終了後、下記のとおり忘年会を兼ねた懇親会を開催いたします。 参加につきましては、事前にメールでの申込みとさせていただきますので、皆様のお申し込みをお待ちしております。
3.第128回例会報告 ◆ 大島衣恵氏(喜多流能楽師)による「寿ぎの能楽-祝いの謡と舞のひととき」の鑑賞とアフタートーク (10月13日、広島県立美術館1階ロビーおよび地階講堂) 報告:三木島彦(広島大学非常勤講師) 戦後、女性能楽師は珍しくなくなりましたが、五流派(観世、宝生、金春、金剛、喜多)の中で最後まで伝統を守っていた喜多流ではじめての女性能楽師である大島衣恵さんの謡と仕舞を鑑賞し、親しくお話を伺う機会を得ました。 祝いの能「枕慈童」「羽衣」「高砂」「猩々」を拝見しました。高砂の謡は、全員でご指導いただきます。音程のないツヨ吟なのですが、大島さんのように声を出すのは、私にはちょっと苦しかったです。大島さんが家族で稽古する時、みんなが彼女に配慮して高めの声で、ということがあったそうです。「羽衣」のように旋律のあるヨワ吟も上、中、下の相対的な音の高さがあるだけです。 昔の能は謡も型も囃子も今よりもっとテンポが速かったということを聞きますが、お酒の入るような席では早めに仕上げることがあったとのこと。これは能が式楽として確立された後、私たちに近い「昔」の話です。もっと古い足利将軍の観能は普通に酒宴の席でした。「翁」を演じる時、囃子方の人たちは最初に音を出した人がその場のリーダーシップを取れるので我先に大急ぎで駆け込んだという話をされました。粟谷菊生(故人)さんによると、昔の宮島の神能は大らかでのんびりしていた(NHK「やさしい能・狂言鑑賞入門」1999年)。鹿しか見ていないので「シカ能」と言われたこと、囃子方の人同士が演奏しながら口喧嘩をしていたことなど、愉快そうに話しています。 お能の家に生まれて中学生くらいまで子方として能舞台に出ることが出来るのですが、そのあとは兄弟のかたは後継ぎとして期待されますが女性はだめだと言われ、大島さんは邦楽の実技が唯一学べる場として東京芸大に進学しました。そして、常に意思表示をしていれば能楽師になることが出来るのではと考えました。これから演じたいのは安宅の弁慶だそうです。女性が男の役を演じるのではない。男も女もなくて私はその役を演じるのですと大島さんは言います。粟谷菊生さんは思慮深くみんなをまとめる弁慶は少なくとも40歳は過ぎないと演じられないと言います。戦前、女性で最初の能楽師となった津村君子は、準備していた装束の使用を直前で差し止められましたが、観客の前で堂々と観世の家元の理不尽を弁じ立ててから「袴能」の形でこの役を演じました。大島さんの弁慶に期待します。
4.催し物のご案内
◆ 第1回の報告と趣旨説明
◆ 研究報告
◆ パネルセッション「独・仏・白の音楽史言説――フェティスの遺産」
◆ 演奏:オペラ・コミック抜粋上演(解説つき)
*演奏会の前に、フロアを交えて全体ディスカッションを行います。
5.会員による出版 会員の柿木伸之氏が、以下の著作を出版されました。
柿木伸之『ヴァルター・ベンヤミン─闇を歩く批評』(岩波書店、2019)
【紹介】岩波新書の一冊として、小著『ヴァルター・ベンヤミン─闇を歩く批評』を上梓しました。20世紀の前半に文筆家として活動したユダヤ人思想家ベンヤミンの批評としての思考の歩みを、その生涯とともに描き出そうとする一書です。彼の名を初めて聞く人にとっても、この思想家が世界大戦とファシズムの時代の現実と向き合いながら、言語と歴史の本質とともノ芸術の可能性を問うていたことが伝わるよう努めて書きました。(柿木伸之)
6.事務局より ◆ 第130回例会発表者の募集 3月に第130回例会の開催を予定しております。研究発表を希望する会員は、1月初旬までに600字前後(字数増減1割程度)の発表要旨を、発表タイトルを添えて学会事務局宛(メールアドレス:hirogei@hiroshima-u.ac.jp)に提出してください。委員会で審議のうえ、事務局受付の順序を考慮して採択をおこないます。
◆ 新入会者のお知らせ(敬称略)
■住所、メールアドレスの変更、入退会については、下記事務局までご連絡ください。
広島芸術学会事務局
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