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広島芸術学会 第30回総会・大会 案内 日時:平成28年7月17日(日)・18日(月・祝)
場所:【会場1】サテライトキャンパスひろしま5階 大講義室502
(広島市中区大手町1-5-3 広島県民文化センター内 Tel. 082-258-3131)
【会場2】ホテル メルパルク広島
(広島市中区基町6-36 Tel. 082-222-8501)
■ 7月17日(日)
「カタルーニャ・ムダルニズマの装飾家ガスパー・ホーマーの室内装飾」 吉本由江(長崎県美術館 学芸員) ② 11:45~12:30「1960年代の日本語専攻精読教科書にみる中国の国家的教育思想 ―北京大学編『日語』所収の芸術テキストの分析を中心に―」 宮 琳(東亜大学大学院 博士後期課程) 昼休憩 ③14:00~14:45「なぜプラトンは悪しきミメーシスで語るのか――『国家』第一巻の分析を 通しての詩人追放論の再解釈」 横道仁志(奈良芸術短期大学 非常勤講師) ④ 14:45~15:30「成田亨がキャラクターデザインにもたらしたもの」 坂口将史(九州大学大学院 博士後期課程) ≪座談会・祝賀会≫ 16:00~20:00 【会場2】ホテル メルパルク広島
5階「桜」の間
青木孝夫(広島大学大学院 教授) パネリスト 金田 晉(広島大学 名誉教授) 神林恒道(大阪大学 名誉教授) 松田 弘(呉市立美術館 館長) 末永 航(美術評論家) 袁 葉[山本園葉](広島大学 非常勤講師/エッセイスト) ◆ 創立30周年記念祝賀会 18:00~20:00 5階「椿」の間 司 会=末永 航(美術評論家) ■ 7月18日(月・祝) 【会場1】
サテライトキャンパスひろしま 5階 大講義室502
◆ シンポジウム「芸術と老年」 10:00~12:00
桑島秀樹(広島大学大学院 教授) パネリスト 青木孝夫(広島大学大学院 教授) 萱のり子(東京学芸大学 教授) 城市真理子(広島市立大学 准教授) 大石和久(北海学園大学 教授) 末永 航(美術評論家) ★ 参加申込み方法 総会・研究発表・シンポジウム: 参加費無料、申込み不要。当日、会場に直接お越しください。 座談会: 参加費無料。 参加ご希望の方は、会報送付時に同封の申込み葉書にてお申し込みください。 ※ 7月7日までにご投函ください。 祝賀会: 参加費 8,000円。当日、会場受付にて現金でお支払いください。 参加ご希望の方は、会報送付時に同封の申込み葉書にてお申し込みください。 ※ 7月7日までにご投函ください。 領収書が必要な方は、申込み葉書の所定の箇所に、その旨ご記入ください。
● 大会研究発表要旨
吉本由江(長崎県美術館学芸員) バルセロナは1888年の万国博覧会の開催を契機とし、ヨーロッパ諸都市の近代的生活とその美を取り入れようとする機運にあった。アール・ヌーヴォーと軌を一にするカタルーニャのムダルニズマ(モダニズム)は、その美的表現の一つの髄である装飾美術において、時代の好みや感覚を具現化している。 マジョルカ島に生まれたガスパー・ホーマー(1870‐1955年)は13才でバルセロナに移り、様々な装飾芸術を扱うフランセスク・ビダルの工房で活動を始めた。1893年に家具職人である父と共に独立したホーマーは、その年の内に建築家リュイス・ドゥメナク・イ・ムンタネーとのコンタクトを得ている。家具職人としてのホーマーは寄木細工の完成度の高さに特徴があるが、彼の活動はムダルニズマの盛期に建築家から室内装飾を委託されたことにより新たな広がりを見せた。ムンタネーが手掛けたバルセロナのリェオ・モレーラ邸の改装(1907年)において、ホーマーは、カーテンやタピスリーといったテキスタイルから、木工家具や床、ステンドグラス、モザイク、最新の電気照明まで装飾全般の指揮を執った。また、当時のカタルーニャ第2の都市レウスにおいて、ムンタネーは、繊維取引業者ジュアキム・ナバースの私邸(カザ・ナバース)の建造(1901‐08年)に際し、ホーマーに室内装飾全般を委託している。本発表では、これらの2例の比較により、20世紀初頭のホーマーの家具と室内装飾の傾向を検証する。 ② 1960年代の日本語専攻精読教科書にみる中国の国家的教育思想―北京大学編『日語』所収の芸術テキ ストの分析を中心に― 宮 琳(東亜大学総合学術研究科人間科学専攻・博士後期課程) 本研究では1960年代に中国で出版され、多くの大学で使用された日本語精読教科書・北京大学陳信徳他編『日語』(第一~三冊)を対象として、当時の語学教育の政治利用策を主眼に、二種の分析を行った。一つは『日語』に採用された作品を出典、出版年、著者によって分析した。次に、『日語』の教科書に採用された作品を日本の書籍十進分類法によって、テキストの性格、ジャンルの特徴、その思想性を分析した。そのことで、当時の中国政府が日本語の教育を通し、語学力のみならず芸術的作品/テキストの政治的目的利用を目指していたことを解明した。 二種の教科書分析を照合した結果、『日語』に採用された多くの作品は政治色が強く、日本語教育においてマルクス主義的な階級観と適合的な政治思想や当時の中国国家指針に合致した道徳観が教育の上でも強調されていたことがわかった。それ以外の採用作品では子供向けの作品等、「毒性のないもの」と見られた題材、内容の作品が選ばれていたことがわかった。共産党は当時の政治的イデオロギーに適合的で、しかも芸術性も高いものを第一義的に採用していた。次に、政治的説教としては無害だが、高い芸術性を備えたものを第二義的に採用していた。 本研究は1960年代の日本語教科書に見られる中国政府の語学教育の政治的利用方針を明らかにした点で大きな意義を持つものであると考える。 ③ なぜプラトンは悪しきミメーシスで語るのか―『国家』第一巻の分析を通しての詩人追放論の再解釈 横道仁志(奈良芸術短期大学非常勤講師) プラトンの詩人追放論についての先行研究は、枚挙にいとまがない。しかし意外なことに、『国家』第一巻冒頭との関係という観点からこの問題を検討している研究例は、管見のかぎり見当たらない。 『国家』は「正義とは何か」という問いから出発する。ケパロスが「正義とは正直であること、借りたものを公平に返すこと」と説くのに対して、ソクラテスが「はたして危険な狂人に武器を返すことも正義でありえるだろうか」と反問することから、一連の哲学問答が開始するのだった。そこで思い返さなくてはならないのは、ソクラテス本人は正直に狂人に武器を返した(アテーナイの民衆の決定を受け容れ、自ら死を選んだ)という事実である。この意味で、『国家』の議論はつねに「間違った方向」に沿って進んでいく。哲学者は非哲学者と対話するために、敢えて哲学から脱線する。しかし、そのことによって、本当の意味で哲学が実現するという逆説的な論理がその裏に隠れている。 この推測が正しいなら、「なぜプラトンは、自らが批判しているはずの悪しきミメーシス(直接話法)で対話篇を執筆したのか」という疑問についても、新しい角度から考察できる。おそらく、プラトンにとって詩人の話法は、批判対象であるからこそ、彼の哲学の成立条件でもあった。本発表は、以上の仮説の妥当性を確認するべく、『国家』の内容を可能なかぎり検証する。 ④ 成田亨がキャラクターデザインにもたらしたもの 坂口将史(九州大学芸術工学府芸術工学専攻博士後期課程) 現在キャラクターはマンガ、テレビ、ゲームといった枠を超えて我々の世界に浸透しており、その数は日々増え続けている。こうした日本のキャラクター増加の状況において、『ウルトラQ』(1966年)、『ウルトラマン』(1966-67年)、『ウルトラセブン』(1967-68年)でヒーローや怪獣のデザインを行った成田亨(1929-2002年)が果たした役割を明らかにすることが、本発表の目的である。 成田亨は怪獣デザインを大きく変えた存在であると先行研究では述べられているが、成田亨が自身の著書で明かしたデザインポリシーを引用する以上の議論はなされておらず、作品間の成田デザインの変化もほとんど議論されていない。そこで『ウルトラQ』放送以前の「モンスター」、「怪獣」を調査し、成田のデザインした怪獣との比較検討を行った。 成田亨がデザインを行う以前に存在した「怪獣」は、既知の動物の「種」の枠組みに収まっていた。成田はそれら既存の「怪獣」を否定し、「怪獣」を未知の「種」に属する存在として捉え直したのである。そしてそのデザインには「共通点の無い多数の要素による同存化表現」や、抽象形態の導入といった新たなデザイン手法が用いられただけでなく、既存の怪獣イメージの成田独自の翻案も行われていた。 こうして成田によって怪獣デザインの自由度は拡張され、モチーフや脚本に縛られることなく、怪獣を無限に創造することが可能となった。この怪獣デザインの文脈が後に他のサブカルチャーの分野に影響した事で、現在のように様々なキャラクターが作り出されるようになったのである。
● シンポジウム:「 芸術と老年 」
古今東西、芸術は、老年や老人あるいは老いを、描いてきました。叡知に満ちた老いもあれば経験に囚われた頑迷もあれば、慈悲深い老人あるいは堪え性のない老いも描かれます。老いを描き表現する芸術家自身が老い、それがまた様々な問題を喚起しています。革新や独創を謳う創造概念は、若さや清新に適合的かもしれません。一方、人生の時を経て味わわれる枯淡やさびを自己の経験と人格を通して表現することは、円熟の芸術家に相応しいかもしれません。さらに、死への行路を芸術に捧げ、安定の老境を越える厳しい生き方もありました。芸術家の老年に興味深い創作美学上の問題があれば、受容する人間の老年・老化に伴う享受のありようも人間学的省察の対象となります。現代社会の高齢化も考慮すべきでしょう。素人俳人も日曜画家もにわか写真家 も皆中年以降、ことに退職後に大量に出現するのが日本の現況でしょう。そこでは、芸術自体の意味が変わってきます。単なる教養ではなく、自身が実践して楽しみ歩む芸術へと、死にがいも生きがいも関わり、意義が変化します。 芸術を主眼に、老年・老境・老化・老衰等々を視角として、人生と世界の奥行きに、現在の時点から一つの照明を当ててみようというのが、本シンポジウムの一つの狙いです。また、逆に<老い>や<高齢>を軸に、芸術また芸術家のありようを照明しようというのが、もう一つの狙いです。 青木孝夫
<パネリストによる発表主旨>
中世後期の心敬僧都は、宗教的思想家であると共に和歌を奉じ、連歌に邁進した芸術家でもあります。主として、彼の芸術論『ささめごと』を軸に、<老い>て死に至る無常世界に住むからこそ、感受性を研ぎ澄ませ、心境を深め、詩作せよと説く、彼の芸道美学を解きます。 萱のり子(東京学芸大学 教授):「書作にみる老年」 書には概ね晩年に拓かれる「淹留」(孫過庭『書譜』)という運筆の理想がある。造化の妙や修養と深くかかわる運筆論を軸にして、芸術と老年について考えたい。とりわけ、学びのプロセスと美的感受の変容という点から捉えると、現代的な意義が見えてくる。 城市真理子(広島市立大学 准教授):「禅宗絵画・水墨画における「老」―成熟した精神の表現」 禅僧の肖像画や羅漢、聖賢たちの説話画など、禅宗絵画・水墨画には老人像が多く描かれており、それらに付随する詩文や説話から、その主題が解釈できる。「老い」の表現が、美術として鑑賞された歴史と意味を考える。 大石和久(北海学園大学 教授):「映画と晩年様式」 「芸術」と「老年」について、映画美学の問題として考察するにあたり、テオドール・アドルノの「晩年様式」論を援用したい。具体的には、ポルトガル人のマノエル・ド・オリヴェイラが101歳で監督した『アンジェリカの微笑み』(2010)を取り上げる予定である。 末永 航(美術評論家):「老年のミケランジェロはどう語られてきたか」 89歳になろうとしていたときに死去した「神のごとき」ミケランジェロは、盛大な葬儀や豪華な墓碑を捧げられ、すぐにいくつもの伝記が流布した。その後ミケランジェロが語られるときには、常に高齢であったことが強調される。西洋の各時代、さらに日本の近代の例をみて、美術家の老年がどう見られてきたかを考えたい。
● 第115回例会報告
報告:末永 航(美術評論家) 広島芸術学会の第115回例会は、2016(平成28)年5月14日(土)、ふくやま美術館学芸課長谷藤史彦委員の企画・ご案内によって福山市で開催された。 朝10時頃福山駅に集合し、まずそこから近いふくやま美術館を訪れた。特別展として「皇妃エリザべートも愛した名陶ヘレンド」展が開かれており、担当された宮内ちづる学芸課次長の解説で、この展覧会を見学した。なかなか目にすることのできない初期の製品や、オーストリアやイギリスの宮廷で使われた品々などをゆっくり鑑賞することができた。 次に同じ美術館の春季所蔵品展「武田五一 -コウモリマークを選んだ建築家」を、これを構成された谷藤氏の説明を受けて拝見した。「コウモリ」は福山市の市章だが、福山出身で、京都大学建築科の創設者として、またアールヌーヴォーなど新しいヨーロッパ建築の潮流をいちはやく日本で取り入れた指導的な建築家として活躍した武田がこの市章を選定したという。最近関心の高まっている武田五一だが、東京や関西でもこのような展覧会はなく、さまざまな分野のデザイナーとしても才能をみせた武田の多彩な作品を見ることのできるたいへん貴重な機会だった。 その後住宅街にある倉庫のような空間でイタリア料理を供するオステリア・ラ・フォンテで昼食を摂り、路線バスで鞆に向かった。 鞆では古い市街を通って少し山を登り、街を一望のもとに見渡せる、通常非公開の後山山荘を見学させていただいた。福山出身のもう一人の重要な建築家藤井厚二が兄のために設計した別荘だが、ほとんど崩壊していたこの建築と庭園は、以前の構成や部材を生かしながら、今注目を集めている福山の建築家前田圭介氏の設計によって甦った。東京在住の現在のオーナーが別荘として利用されているが、地元の有志を中心とする「後山山荘倶楽部」の方々がボランティアで管理運営を担っている。 谷藤氏は福山の建築研究者として、この山荘の保存改修プロジェクトの中心的役割を果たされ、現在も後山山荘倶楽部の共同代表をつとめている。細部におよぶ詳しい説明だけでなく、保存再生の過程についても語ってくださり、また所有者の方ともお話をすることができた。 夕方、去りがたい気持ちで山荘を後にし、バスで福山駅にもどって解散した。学会ならでは充実した内容を堪能できた一日だったが、参加者が少なかったことが惜しまれてならない。
―事務局からー
横道仁志 (よこみち ひとし 美学、中世思想) 宮 琳 (GONG Lin 日本語教育史、受容理論と文学教育) 童美玲(TUNG Mei-Ling 日本の文芸、演劇) ◆ 委員改選選挙について
なお、選挙権、被選挙権は本年5月末日現在で登録されている会員にあります。 ◆ 創立30周年記念座談会・祝賀会
─会報部会から─
◆ 催しや活動の告知について
(馬場有里子090-8602-6888、baba@eum.ac.jp)
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